『―結局さ、のっぺりしすぎてるんだよ、とナナコは言っていた。
何もかもがのっぺりしてる。毎日、光景、生活、成績、全部のっぺりしてるから、いらいらして、カーストみたいな理不尽な順位をつけて優位に立ったつもりにならなきゃ、みんなやっていられないんじゃないかな。(P.132)』
30代と言うのは、人との出逢いに倦み始める年頃なのかもしれない。本書の解説で、作家の森絵都氏が、そのように述べている。
本書で登場する人物は女性であり、その女性同士の、すれ違いや、葛藤、悩みなどを描いた小説なのだが、この悩みと言うのは、男性にも共通するのではないのかな、と思って読み進めた。
勤め先での人間関係に疲れ、寿退社をした、35歳の女性。家にこもって出会いのない日々を送ってきた彼女は、他者と交わる気力自体を失いかけている。
大学卒業と同時に旅行事務所を起こし、軌道に乗ったところで会社を立ち上げた、これも35歳の女社長。
偶然にも同じ大学の同級生であったということで親しくなり、意気投合して新事業を盛り立てようとするが、時が経つにつれて、次第にその仲に亀裂が生じてしまう。
独身女性と主婦。社長と部下。外に向かう性格と内に向かう性格。
結婚をする、しない。
子どもを持つ、持たない。
それだけのことで、なぜわかりえなくなるのだろう。
文庫本の裏表紙には、そのようなあらすじ紹介があるが、これって、男性にとっても同じようなことが言えるのではないだろうか。
ファクターは様々あるとしても、元々同じようなスタートラインにいた同級生が、次第に環境やステータスの違いによって、価値観が変わってしまう。
30代という同じ年代の自分であるからこそ、かなり身に染みる思いを持ちながら読んでしまいました。
この小説の素敵なところは、そんな多様化した状況を、ノスタルジックに浸って終わりにするのではなく、それぞれの立場や価値観のもとで、前に進んでいこうという気力をもらえるところにある。
最後まで読み進めると、素敵だなあという晴れやかな気分になれる。
角田光代氏の小説は、本当にそのような元気をもらえることが多いので、非常に好きです。
今後も色々と読んでみたいと思います。