とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『カインは言わなかった』

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 血の滲むような、言葉では表現しつくせない努力や根性を持って見せても、

『絶対に超えられない、人智を超えたもの』

というものを、誰しも感じたことがあるに違いない。無論自分もそうしたものがあると痛感して生きている。

 

 

 今回紹介する小説においても、何物をも犠牲にしても、追いつけない、追い求めることのできない、『圧倒的存在の何か』に翻弄され続ける登場人物が出てくる。

 この『圧倒的存在の何か』、また、人智を超えるという意味合いで、神とは何か、という非常に大きな問いを、小説を通じて投げかけるのが、芦沢央

『カインは言わなかった』

である。

 

 

 カリスマ芸術監督が率いるダンスカンパニーの新作公演。その主役に抜擢された男が、公演直前に姿を消すことから物語は展開する。

 また、失踪した男には、美しい画家の弟がいた。その弟が失踪に関与しているのか、読者は緊張感を持ちながら物語を進めていくことになるだろう。

 

 題名にある『カイン』は、旧約聖書に登場するカインとアベルの兄弟のそれにちなんでおり、またダンスカンパニーで演じられる新作のモチーフにもなっている。

 

 

 二人で同様に神様に捧げものをしたのに、神様は弟の捧げものばかり喜ぶ。それに嫉妬した兄のカインは、弟を呼び出して殺してしまう。

 やがて神がそれを知ると、神の怒りに触れたカインは、誰からも殺されないよう、神にしるしを刻印された呪われし者となり、その地を追放される。

 

 こうした背景は小説の中で説明されるが、読者は、このカインとアベルの兄弟と、小説で登場するダンサーと画家との兄弟の間に、何かしらの関連性があるのではないか、と推測しながら読み進めるのが面白い。

 

 また、それと密接に関連性を持った、他の登場人物のインパクトも非常に重厚である。そのために、ミステリー小説でありながら、深い重厚的なテーマを含有した複雑な作品に仕上がっている。

 

 最期の最期までハッとさせられるような展開があり、結末は非常に衝撃的なものでした。

 芦沢央氏の作品を読んだのはこれが初めてなのですが、今後も他の作品を読んでみたいなと思いました。

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