今から57年前、静岡県で一家4人が殺害された、いわゆる袴田事件。
つい先日の2023年3月20日、死刑が確定していた袴田さんの再審開始が確定しました。
今後早期の無罪で決着がつく可能性があり、死刑の冤罪の可能性がある事件においては、歴史的にも重大な出来事だと思います。
そのようなタイミングで、奇しくも非常に関連性のある書籍を自分は読んでいました。
小説家としても尊敬する平野啓一郎氏の
『死刑について』
という本です。
本書は、2019年12月6日に開催された、大阪弁護会主催の講演記録をもとに、2021年10月12日の日弁連主催のシンポジウム『死刑廃止の実現を考える日2021』登壇時のコメント等を加えて全体を再構成し、加筆・修正を加えたものでありますが、平野氏の考察が実に印象深いです。
平野氏の小説で最近読んだ『ある男』でも、主人公は死刑廃止を訴える弁護士の役になっており、小説内でも、死刑に対する鋭い批判的記述があったのを記憶しています。
その印象が強く、今回より深く考察をしたいと思い、本書を購入して読んでみました。
先に自分の立場も明確にしておくと、私自身も、死刑制度は廃止すべきだと思っています。
ただ、一方で現在の日本の国内世論においては、死刑制度に関して廃止派は少なく、多くの人が存続に理解を示しているのは認識しています。
また、犯罪被害者の方やご家族などに対する、理解やケアも、まだまだ不十分であり、より手厚い社会を構築すべきだとも思っています。
しかしそれでも、死刑は最終的には廃止したほうが望ましいと考える。
平野氏はその理由についても述べています。大きく述べて3つ。
1.警察の捜査の実態を知り、それに強く非難的な想いを抱いたから。
2.死刑判決が出されるような重大犯罪の具体的な事例を調べてみると、加害者の生育環境が酷いケースが少なからずあるから。
加害者に全く責任がないとは決して言わないが、国が劣悪な環境を放置しておきながら、罪を起こしたら徹底的に自己責任を追及するのは、行政や立法の不作為なのではないか。
3.『人を殺してはいけない』ということは、絶対的な禁止であるべきだということ。
たとえ人を殺すような罪を犯した共同体の構成員がいたとしても、その人はあくまで規範の逸脱者であり、規範自体は維持されなければいけないのではないか。
もちろん書籍の中にはより精緻な分析がされているので、是非とも読んで欲しいと思います。
被害者の方々への理解、ケアには充分なサポートを全面的に行いつつ、死刑制度に関する国民意識が高まって欲しいと思います。