20世紀の混沌を縦横無尽に漕ぎ渡り、人間と社会をめぐって、深い洞察の言葉を紡ぎつづけた安部公房。
その作品世界は、悪夢のようでありながら笑いに満ち、悲惨でありながら生のエネルギーに溢れています。(芸術新潮2024年3月号参照)
2024年の今年は、安部公房氏の生誕100年という年。
中高時代に初めて出逢い、衝撃を受けてから、改めて社会人になってから、様々な作品を読もうと思って手に取りました。
最初はとっつきにくく、話の展開が非常に特徴的で難解な部分もあるのですが、なぜかそれが病みつきになるというのが、安部公房氏作品の魅力なところ。
今回紹介する短編集、
『無関係な死/時の崖』
には、
〈人魚伝〉
という作品があります。
物語としては、サルベージ会社の潜水士である“ぼく”が沈没船の中で全身緑色の人魚と出会い、恋に落ち、破局に至るというもの。
その中で、“ぼく”は最終的に、社会的に存在しない存在として物語の中に閉じ込められてしまう。
安部公房氏では、『砂の女』が非常に有名ですが、何が何だかわからない存在のものから、自分が絡めとられて、身体や思考が支配されそうになるというのが、この『人魚伝』とも共通しているところがあります。
そうした作品間で、共通するテーマみたいなのがあるのが、安部公房氏作品の魅力であり、様々な作品に触れることで、またその世界観が広がるのではないかなと思いました。