こんなにも衝撃的で、感動した作品だとは思いませんでした。
間違いなく、自分の中での印象に残った傑作です。
今回ご紹介するのは、前回に引き続き、有吉佐和子氏の
『非色』
という小説。
物語は、終戦後、日本に駐留した占領軍と結婚した、いわゆる『戦争花嫁』を主人公とする。
恋に落ちた黒人占領軍兵士との間に、妊娠が発覚した主人公は、その子供を産むか産まないか悩む。
しかし、実の母親が、黒人と結婚しようとしている主人公に対し、
『黒ン坊生まれちゃ困るじゃないか』
と言い放つ。
反骨精神のようなものを持ち合わせる主人公は、より黒人兵士との結婚へと加速させていく。
ただ、そんな主人公も、世間に対する体裁を決して無視できなかった。
国際結婚したとはいえ、夫が黒人だとは言えない。
黒人に対する日本社会の冷たい偏見から逃れようとする主人公は、自分の子どもを守るため、夫の国であるアメリカへ行こうと決意する。
しかしながら、渡米した先にあったのは、むしろ日本よりも過酷な現実であった。
日本にいてはわからない、移民の国であるアメリカ社会の、複雑に絡み合った人種差別に、主人公は直面する。
この作品の名作だと思うところ。
筆者が一番伝えたかったのは、戦争花嫁の過酷な人生そのものではなく、どんな人間も逃れられることのできない、人間社会に根強くある『差別の構造』を抉り出しているところにあると思う。
そしてそれは、人種問題や、ナショナリズムにかかわるものではなく、人間本来の持つ『差別の構造』であると思う。
主人公自体も、決して差別意識をまったく持ち合わせない、聖人君子ではない、というところが、非常に生々しい。
―金持は貧乏人を軽んじ、頭のいいものは悪い人間を馬鹿にし、逼塞して暮らす人は昔の系図を展げて世間の成上りを罵倒する。
要領の悪い男は才子を薄っぺらだと言い、美人は不器量ものを憐み、インテリは学歴のないものを軽蔑する。
人間は誰でも自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。
差別の意識というものは、どんな人間にも通底しているという本質を、小説という形で表現できる有吉佐和子氏の芸術性に、非常に惹かれました。