とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『遠い山なみの光』

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 目まぐるしく変化する激動の世界において、自分と世の中の関係性が上手く分からない、またそこまで言語化することは無いにしても、漠然と未来の世界にぼんやりとした気持ちを持つことはあると思います。

 

 今回紹介する、ノーベル文学賞作家、カズオ・イシグロの小説は、そんな自分と世の中の関係が分からない不思議な感覚を、非常に哲学的に描いたものになっています。

 カズオ・イシグロ氏も、自分が尊敬していて大好きな作家の一人。

 

 1954年に長崎で日本人として生まれたイシグロ氏は、5歳の時に家族とともに英国へ

行き、そのまま英国に移住。1983年には英国籍も取得し、スコットランド出身の女性とも結婚。ノーベル文学賞も受賞した英国を代表する英国作家。

 あとがきで作家の池澤夏樹も述べていますが、内容が日本であり、日本語でこれを読みつつも、この作品は英語文学であることを忘れない方がいい、と述べています。

 

 読んでみると分かると思うのですが、確かに日本人の自分から読むと、日本のことを書いているにも関わらず、なぜか広い世界のことを描いているような不思議な感覚に捉われます。

 

 今回紹介する本は、

遠い山なみの光

という、故国日本を去り、英国に住む女性の想いを描いたものです。

 

 

 この本は、カズオ・イシグロ氏の他の代表作、『日の名残り』、『浮世の画家』と同じく、時代の流れにより、価値の転換期に遭遇した人物が、心の中で自分の過去をどう清算すれば良いかに悩むという、同一のように葛藤した主人公の生き方を描いています。

 

 故国の日本を離れ、英国に住んだ主人公悦子は、突然娘景子の自殺に直面する。

 その喪失感の中で悦子は、自殺した景子を身ごもっていた当時の過去、長崎にいた時にたまたま知り合った佐知子と言う女と、その娘万里子のことを想いだす。

 当時、佐知子と価値観においてほとんど共感することの無かった悦子であるが、そんな佐知子のような不安定な運命を、自分も自然と選ぶことになっていたというストーリー。

 

 会話が非常に哲学的で、物語を読んでいるのですが、その中で、不安定な時代に葛藤する主人公のセリフが、非常に現代人には染み渡る気がします。

 

 時代はいつの時代も、激動なのかも知れない。当時の社会構造と今のそれは違うとはいえ、現代にも大きな社会のパラダイムシフトが起きるかもしれない。

 そうしたことが起きると、自分もこの主人公と同じく、カズオ・イシグロ氏が描く、希望とも絶望とも異なる、『薄明の世界』に生きることになるのだろうなと思いました。

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