『鴻巣:他者と関係を結ぶことについて、ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロは「横の旅」と「縦の旅」という言葉で説明しています。
グローバルな時代において、リベラルなインテリたちは「横の旅」をする。
つまり、世界に飛び出していってさまざまな知識人と意見交換をしたりするのだけれど、それは結局、同じ階層の人たちと話し合って「そうだね、そうだね」とうなずきあっているに過ぎない。そうではなく、「縦の旅」をしようとイシグロは言っています。
(中略)
ですから、まったく意見が異なるような人、「フェミニズムって何ですか?」という人とお話しするほうがずっと難しい。野枝が「縦の旅」に踏み出した意義は、とても大きいと思います。』
本書の語り手である、加藤陽子、鴻巣友季子、上間陽子、上野千鶴子各氏の特別座談の中で、鴻巣氏はこのように語りかけている。
引用元を個人的に調べましたが、おそらくここでカズオ・イシグロ氏が語っている部分のことだと思われます。
イシグロ氏のこの発言、非常に考えさせられる部分が多いのではないのでしょうか。
自分は男性ですが、フェミニズムの課題は、全人類で考えないといけないものだと思っています。
自分の政治スタンスはリベラルですが、イシグロ氏のいうように、自分の価値観と近い、『横のつながり』の人と話すことは非常に心地がいい。
ただ、『横のつながり』だけでは、フェミニズムの課題を克服できないのかもしれません。
そうした意味で、当時の階級社会の日本で、知識人であった伊藤野枝が、『縦の旅』に果敢に挑戦しようとしたのは非常に学ぶべきことが多いと思いました。
自分の近くに住んでいる人でも、まったく違う価値観の世界に生きているような人と繋がること、自分も実生活の中で意識していきたいなと思います。