『歴史がくり返してきた重要な問題のひとつは、たとえば日本のような戦場から離れた国に住む人びとの、当事者意識の減退と、関心の低下、そして倦怠ではないか、つまり「胸の痛み」が持続しないことではないか、ということです。(P.3)』
理解を深めるのに、非常に真剣な気持ちで読まないといけない書籍でした。
ただ、現代に生きる人間として、歴史と繋がる現代の社会問題に向き合い続けるのは、非常に大切なことです。
昨年読んでいた本なのですが、感想を書くのが遅れてしまいました。
ご紹介する本は、京都大学大学院文学研究科教授の小山哲氏と、京都大学人文科学研究所准教授の藤原辰史氏の共著、
『中学生から知りたいウクライナのこと』
という、ウクライナを理解するための本。
本書の特徴は、三つ挙げられる。
第一に、『中学生から知りたい』というタイトルはついているものの、『大人たちの認識を鍛え直す』と言う意味が込められていること。
第二に、小山氏が、ポーランドに留学経験のあるポーランド近世史の研究者であり、ポーランドという国から眺めたウクライナという地域の見方が重視されていること。
第三に、本書では、歴史学的な分析が多いということ。
一見遠回りかもしれないが、歴史をさかのぼることで、現状分析だけでは理解できない深い背景を知ることが出来る。この作業は非常に大事だと思います。
言うまでもなく、ロシアの軍事行動は、純然たる国際法違反。ロシアがどんな理由を掲げようとも、今回の侵略戦争には正当性を得ることは出来ない。
しかしながら、それをもって、ロシアやプーチンを徹底的に糾弾し、悪と断罪するだけでは、歴史の重みを直視できない。
そうした短絡的な思考に陥らないようにするためにも、歴史の理解は必要だと感じました。
印象的だった部分は、ウクライナ地域を、料理のイメージで想起させた部分でした。
ロシア料理で出てくるスープとして、『ボルシチ』があるが、ポーランドには、『バルシチ』と呼ばれるスープがある。サトウダイコンの仲間のビーツを使い、赤い色で、甘酸っぱい味。
一方で、そのポーランドには、『ウクライナ風バルシチ』というものがあり、これは日本人が良くイメージするボルシチのようなもの。
小山氏によれば、ポーランドから見るウクライナは、この『ウクライナ風バルシチ』のようなものだと語る。つまり、いろんなものが入っているが、上手く言い表すことの出来ない不思議な感じのするものだと。
これには理由がある。
そもそも、『ウクライナ』という地域の名前そのものが、なかなか意味を一つに決められない。
ウクライナの歴史には一貫性があると言っては良いと思われるが、それは日本人が、『日本の歴史』と言ったときにイメージするものとは、かなり性質が違うということ。
歴史を学ぶとき、自分達が普段慣れ親しんでいる感覚でイメージするだけだと、本質像を上手く捉えられない可能性があるということを意識したものでした。