お疲れ様です、スナフキンです。
今回も、自分が大好きな作家、伊集院静氏の小説を紹介したいと思います。
伊集院氏の小説は、人間が、他者と生きていく中で何が肝心なのか、人間形成において、何が必要なのかを様々な状況で問いかけるものが多いです。
今回紹介する、
『琥珀の夢』
と言う小説も、まさにそうした、人間の生きざまにおいて、学ぶべきことが多い小説と言えるでしょう。
明治時代を生きた鳥井氏の少年時代から始まり、幾多の出会いや別れを通じ、後のサントリーとなる寿屋洋酒店を築き、発展させていくまでの軌跡が描かれています。
特に、印象深かったのは、明治40年、後のサントリーとなる寿屋洋酒店の創業者、鳥井信治郎と、五大自転車店の丁稚・幸吉とのやり取りでした。
当時の自転車は一台100円から120円、現在で換算すると50万円以上もする超高級品でした。
そんな超高級の自転車を、幸吉が寿屋洋酒店へ届けに行った際、幸吉は美しい光沢を放つ、葡萄酒の瓶を目にします。
『世の中にはいろんなもんがあるんやな。』
美しい光沢を放つ瓶は、少年の心を駆り立てます。
そこへ寿屋の主人、鳥井信治郎が姿を現す。
『ええもん作るためなら百日、二百日かかってもええんや。ええもんのために人の何十倍も気張らんとあかんのや。そうしてでけた品物には底力があるんや。わかるか、品物も、人も、底力や。』
『ええ品物を作るために人の何倍も踏ん張ったんや。踏ん張っても、踏ん張っても、まだ足らんと思うて踏ん張るんや。そうしたらあとは、“商いの神さん”があんじょうしてくれはる。そのうち持坊にもわかる時が来る。』
少年は深々と頭を下げて、おおきにありがとうさんだした、と店を出た。
そして、この少年こそ、後に“経営の神様”と呼ばれるようになった、
『松下幸之助』
だったというのです。
このシーンを読んだ時、非常に鳥肌が立ったのを覚えています(笑)。
こうして様々なストーリーが繋がっていくのだと。
感動的なストーリーはそれだけでは終わりません。
鳥井信治郎と幸吉(松下幸之助)との出逢いから74年後の昭和56年、大阪、築地港のサントリー洋酒プラントの中に、鳥井信治郎の銅像が完成します。鳥井信治郎が没して19年後のことでした。
そこに、公の場にほとんど顔を出すことがなくなった、当時87歳の松下幸之助が、久しぶりに姿を見せたました。
『今日の銅像の見事な出来栄えと、あの空に“赤玉ポートワイン”を掲げた姿は、私が丁稚の時代に見た信治郎さんそのものです。』
この日の松下幸之助の恩義を忘れぬ出席に、二代目社長、佐治敬三をはじめ、一同が感動したといいます。
経営の神様として、今でも現代人に大きな影響を与える松下幸之助が、“商いの師”として尊敬していた鳥井信治郎は、それほどまで偉大な人物だったのでしょう。
伊集院氏が描きたかった、『類い稀な発想と想像力を持つ一人の商人の生涯』の鳥井信治郎の人生には、学ぶところが非常に多いと思います。
こうした感動を味わえるのが伊集院氏の小説の良さであり、読書の醍醐味なんだなと思いました。