NHKテキストの『100分de名著』シリーズは、読みたいものが非常に多いです。
今回紹介する、ボーヴォワールの
『老い』
は、邦訳で二段組の上下巻、総ページは700ページ超という大著なのですが、上野千鶴子氏がとても分かりやすく解説してくださっています。
ボーヴォワールは、
『老いは文明のスキャンダルである』
と表現しました。
現代社会において老人は人間として扱われていない、老人の人間性が棄損されている、ということへの怒りから、ボーヴォワールは『老い』を書いたといいます。
本書の中でボーヴォワールは、老いを多角的に考察しています。
特に注目されるのは、歴史も社会も個人もが、老いをいかにネガティブに扱ってきたかを事例やデータをもとに示しながら、それがいかに不当なことであるかを書いているところにあります。
老いは誰にも避けられない。
なのに、なぜその過程を否定しなければならないのだろうか。ボーヴォワールは強く問題提起を行います。
しかしながら、どうすれば豊かな老いを生きることができるかは、本書には書かれていない。
それは個人が乗り越える問題ではなく、文明が引き受けるべき課題だとボーヴォワールは考えていると、上野氏は解説します。
老いは衰えではありますが、だからと言ってみじめではない。
老いをみじめにするのは、そう取り扱う社会の側である。
役に立てないからと厄介者扱いするのではなく、役に立てないと絶望するのでもなく、わたしたちは老いを老いとして引き受ければいい。
それを阻もうとする規範、抑圧、価値観が何であるかを、ボーヴォワールの老いは私たちに示してくれている。
誰にも避けられない『老い』を否定的にとらえるのではなく、確実に迎えるステージだとして前向きに捉えられる社会構造の構築が必要なのではと思います。