とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『JR上野駅公園口』

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

 お疲れ様です、スナフキンです。本日も感動した小説をご紹介したいと思います。

 今回紹介する小説は、最近メディアで話題になった、柳美里氏著、

JR上野駅公園口

という作品になります。

 本作は全米図書賞』という、アメリカで権威のある文学賞を受賞した作品であり、書店でもかなりの冊数が積み上げられており、話題の大きさが伺えました。

 

JR上野駅公園口 (河出文庫)

JR上野駅公園口 (河出文庫)

 

 

 

 本作のあらすじを、ネタバレにならない程度に簡単に説明します。

-主人公となるカズは、1933年、天皇』と同じ日に生まれた肉体労働者。福島県相馬郡(現・南相馬市)で生まれ、カズは東京オリンピックの前年、出稼ぎのために上野駅に繰り出してきた。

 物語を通じカズは、身近にいる多くの人間との別れを経験する。

 そして様々な紆余曲折を経て、最終的にカズは上野の路上生活者となってしまうのだが、本作はそんな主人公の生涯を通じ、現代社会における光と闇を見事に表出させている。

 

『-多くの人々が、希望のレンズを通して東京オリンピックを見ているからこそ、私はそのレンズではピントが合わないものを見てしまいます。

「感動」や「熱狂」の後先を-。(P.170)』

あとがきで著者の柳美里氏は、このように述べている。

 

 実際に、ホームレスの人々の間で山狩り』と呼ばれる、皇族が往来する行幸直前に行われる、『特別清掃』と言う名の、ホームレス排除の作業があるらしい。

 著者の柳美里氏は、その実際の現場を取材したと記しているが、私自身、こうした行為が実際に行われているのは全く知らなかった。非常に自分の無知を悔いた場面でした。

 

 日本の政治学者・哲学者で、放送大学教授、明治学院大学名誉教授を務めている原武史氏が巻末に解説を記しているが、非常に深い熟考を促す問題提起がそこに示されていました。

 

 小説の中のある場面で、現天皇と現皇后を載せた車が、上野の公園にいた、ホームレスの主人公に近付く場面がある。

 主人公は、過去に幼少時代、地元の原ノ町昭和天皇を奉迎した原体験があったのだが、その際、陶酔感がよみがえったという、まるで逆説的な体験をしている。

 

「本来ホームレスである主人公は、いわば天皇制』の枠組みによって排除されているにも関わらず、その天皇制の呪縛から一生逃れることが出来ない運命にいる」

 原氏はそのように述べている。

 主人公が『』であるなら、天皇と言う『光源』によってのみ、その存在が浮かび上がる。

 

 これを原氏は、

天皇制の〈磁力〉が強まっている」

と示しているが、いずれにしても、著者柳美里氏が、『光』のレンズを巧みに扱い、本来我々が忘れてはいけない『影、闇』の部分を非常に効果的に演出していることは事実であると思う。

 

 最後の結末をここで述べることは控えるが、本作は東日本大震災の史実も、とても重要なファクターになっている。

 

 「熱狂」や「感動」を決して否定するわけではないが、そうしたキラキラしたものに隠される、『影、闇』と言ったものにも関心を寄せられるような人間になりたいと思うようになりました。

Copyright ©とりま文系歯科医師が自己投資。 All rights reserved.

プライバシーポリシー