お疲れ様です、スナフキンです。
今年最後の読書感想になりそうですが、今回は角田光代氏の
『ツリーハウス』
と言う小説を読ませていただきました。
夏の文庫フェアの時に、書店で面白そうだと手に取って途中まで読んで積読していた本だったのですが、年末少し落ち着いて読んでみようと思い、この度読了しました。
角田光代氏の小説では、過去に『八日目の蝉』を読んだことがありまして、登場人物の心理描写が絶妙で、感情移入しやすく面白いという記憶を持っていましたが、今回の作品もそうした心理描写を味わうことが出来る作品となっています。
また、それに加え本作では、第二次大戦以降、実際に起こった出来事をベースに、現代人が過去とどのように繋がっていっているのか、ということを巧みに描き上げています。
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(あらすじ)
主人公である中学生の藤代良嗣は、自分の家の人々それぞれが、何か他家の人々とは違うようなつながりがとあると感じるようになる。それぞれが無関心で、それ自体に自由を感じているものの、繋がりというものが本当にあるのか気になりだす。
物語は、そんな良嗣の祖父の死から始まる。祖父母が出会った満州に行けば、何かルーツを知ることが出来るかも知れない。良嗣は、祖母ヤエ、引きこもりの叔父太二郎と一緒に満州への旅に出る。
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『現代が過去から途切れなく続いている長い時間の積み重ね』
であることを、この小説は再確認させてくれる。ここが素晴らしいポイント。
過去の戦争というものを、実際に現代人は体験していない。しかし、今現在ある、ということは、全ての過去の繋がりなのだ。
物語は現在の記述から、突然昭和15年にジャンプする。そして次第に現在に近づき、主人公の良嗣と、祖母のヤエの話が合流する。
最後に良嗣は、家族を繋げているものは何なのか結論付けますが、それはつまり祖母ヤエの過去のエピソードが、現代へと途切れなく続いているという証拠でもある。
-あのとき、祖母が何に怒ったのか、今なら分かる。闘うことも逃げることもせず、やすやすと時代に飲み込まれんなと祖母は言ったのではなかったか。祖母たちの生きた時代のように戦争が今あるわけではない、赤紙がくるわけではない、父たちが生きた時代のようにのぼり調子なわけではない、浮ついた希望が満ち満ちているわけではない、今は平和で平坦で、それこそ先が見通せると錯覚しそうなほど平和で不気味に退屈で、でもそんな時代に飲み込まれるなと。(P.466)
現代では戦争を身近に感じることはない。それでも、戦争のあった時代に飲み込まれてはいけなかったのと同様に、不気味なくらい退屈で平坦な平和の時代にも、決して飲み込まれてはいけない。
この教訓は、我々にとっての渾身のメッセージな気がしてなりません。
第三者の架空の物語であるにも拘らず、読者に強烈なインパクトを与える小説を作る角田光代氏の力量が、本当に凄いのだなと感じました。
年内に読了出来て良かったです。来年、角田氏の他の作品も手に取ってみたいと思います。