本日も伊坂幸太郎氏の作品を紹介する。
2004年の『グラスホッパー』、2010年の『マリアビートル』に続く、殺し屋が主要人物として登場する小説の第3弾。
・グラスホッパー⇒バッタ。
・マリアビートル⇒テントウムシ。
・AX⇒斧。『蟷螂の斧』、つまりカマキリ。
主人公の兜が息子と、『蟷螂の斧』の成語に関する会話を交わす場面がある。
『蟷螂の斧って言葉を知ってるか』
(中略)
『負け犬の遠吠えみたいな意味?』
『似てるが、少し違う。カマキリは勝つもりだからな。弱いにもかかわらず、必死に立ち向かう姿を、蟷螂の斧という』
(中略)
『でもそのことわざは、カマキリもその気になれば、一発かませるぞ、という意味合いではないんだろ』
『どちらかといえば、はかない抵抗という意味だ』
(中略)
『ただ、カマキリの斧を甘く見てるなよ、と俺は思うけどな』兜は言う。(P.19-P.20)
この題名が、作品の中でどんな意味を持っているのかは、読了した時に皆ハッと気付くだろう。
文庫本の巻末の解説で、文芸評論家の杉江松恋氏は、伊坂氏のことを、
『死の不安を書く作家』
だと言っている。
また同時に、
『家族のつながりを描く作家』
という一面もあり、この二つは根底でつながっていると杉江氏は述べている。
勿論伊坂作品の魅力はこれ以外に多くあるし、紋切り型のように定義できるわけではないと思うけれども、今回の『AX』はその両者の面が見事に散りばめられている作品であることは間違いない。
初めて自分が読んだ伊坂作品は、『重力ピエロ』であったが、この作品も家族のつながりを見事に描いた名作であり、『AX』を読むことで、不思議と『重力ピエロ』を読んだ時のあの感動を思い出してしまった。(ちなみに、岡田将生君が出演していた映画も大変良かった)
伊坂氏の新作を出すスピードは非常に早い(気がする)。新作を追いかけつつ、まだ読んでいない過去の名作も色々味わっていきたい。