先月文庫の新刊で刊行されていた、大好きな伊坂幸太郎氏の小説紹介。今回も非常に面白い作品でした。
自分のツイッターでも言っていたのですが、社会情勢が落ち着き、然るべき時期になったら、都内で『伊坂幸太郎飲み会』みたいなものを開催しても良いのかな、と思っております。
実際に開催できるかどうかはまだ未定ですが、もし好きな作家で人々と交流できれば良いと思っています。
本日ご紹介するのは、『ホワイトラビット』という作品。
あらすじを簡単に。
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身代金の額を、相手の出せる額にするなど、自称『良心的な』誘拐をビジネスにしていた兎田孝則は、ある日自分の新妻を誘拐されてしまう。
妻を無事に解放するための条件として、兎田は、とある人物を生け捕りにして来い、との命令を受ける。
その命令を受けた結果、様々な要因が絡み合い、最終的には、『白兎事件』という、宮城県仙台市での高級住宅街での人質立てこもり事件を引き起こす。
だが、そこで人質になった家族にも実は秘密があり、それが複雑に絡み合い、最期には驚きとスリルに満ちた結末を迎える・・・。
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毎回思うが、タイトルのネーミングセンスが非常に良い。
小説読了後、タイトルに、ああ、『そういう意味もあるのかな。』と想起させるところに余韻を感じ、心地いい気分になる。
また、内部で引用される、レ・ミゼラブルのセリフも秀逸である。
映画は観たことはあるが、原作をまだ読んだことのないのであくまで引用している部分でしかないが、印象に残ったのを少しだけ書き残しておく。
-『俺が驚いたのは、あれすよ、小説の中で、おわりのほうで、誰かが演説してますよね。十九世紀は偉大だけど、二十世紀は幸福になるだろう、って。二十世紀には、古い歴史にあったようなことは何ひとつ、征服も侵略も飢餓も略奪もなくなるだろうって。何だか、しょんぼりしちゃいましたよ。ぜんぜん、今もありますよね(P.34)』
-『海よりも壮大な光景がある。それは空だ。空よりも壮大な光景がある。それは』
『宇宙か?』
『それは人の魂の内部』彼女は笑う。『人の心は、海や空よりも壮大なんだよ。その壮大な頭の中が経験する、一生って、とてつもなく大きいと思わない?(P.206)』
筆者も小説の中で言及しているが、こうしたレ・ミゼラブルの引用などは、ストーリーを語るという意味においては、決して大きな要素ではない。
しかしながら、そうしたベーキングパウダーのような部分が、自分は非常に印象的に思い出させてくれる。
小説の面白さってそうした部分にもあるとは思う。
ストーリーを楽しみつつ、知識も増える。
そうした知的好奇心を書きたてる伊坂幸太郎氏の小説、今後も感想を記していきたい。