お疲れ様です、スナフキンです。
以前自分の好きな百人一首の和歌を何作か紹介していたのですが、改めて詠み返してみると、その他にも魅力的な作品がいくつもあり、定期的に書き記していきたいと思いましたので、また再びご紹介していきたいと思います。
今回の作者は、『古今和歌集』を編纂し、『仮名序』を著した大歌人、紀貫之の作品。
〈第35番〉
人はいさ 心もしらず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける
(訳:人の心は変わりやすいものだから、今のあなたの気持ちは、さあどうだか分かりません。しかし、この古くから慣れ親しんだ場所の梅だけは、昔のままの懐かしい香りで私を迎えてくれます。)
この歌は、紀貫之が大和国(現在の奈良県)の長谷寺に参詣するために泊まっていた宿を訪れたときに詠んだ歌と言われている。
その宿の主人が、
『宿はここにいつもあるのに、あなたはとっても久しぶりではないですか』
と皮肉を言ってきた。
それに対して貫之はこの歌を詠み、そばに咲いていた梅の枝を折り、それを渡したと言われている。
『人の心は変わりやすいものだけど、昔なじみの里の梅だけは、昔のままの懐かしい香りを放って私を迎えてくれる』
という貫之のウィットに富んだ、当意即妙な返し。初めてこの歌を理解した時、非常に上手いと唸ってしまったことを覚えています。
この歌の相手が、男性か女性かは分からないそうです。
どちらとも取れるとは思うのですが、これが女性だと、『昔のままの懐かしい香り』を放ってくれているのは貴女ですと、二人の間の遠い昔の恋愛を暗示していたかもしれないと思うとなかなかロマンチックですね。
読み手に想像をかき立たせる和歌の魅力、大人になるにしたがい、より味わい深く感じられるようになってきた気がします。