―社会に出て、関わる人も広がって、本当に言いたいことを言って、何の曇りもなく自由に思いどおりに生きている人などそういないことを知った。
ありのまま生きているように思える人も、そんな強い自分であるために、どこかで無理をしている。
他人がどう思うかを考慮せず、自分の心だけに従って動ける人は、めったにいないはずだ。
本日ご紹介する本は、瀬尾まいこ氏著
『夜明けのすべて』
という小説。
同じ職場で働いている、それぞれ内部に苦しさを抱えている男女。
PMS(月経前症候群)という症状により、自分の感情を抑えられず、周りが見えなくなり、歯止めがきかずに怒りを爆発させてしまう女性主人公。
そして、仕事もプライベートも充実しているし、本来深刻な悩みは一つもなかったはず何に、逃げられない場や緊張を強いられる場に出ると、苦しくなる症状に突然さいなまれるようになった、パニック障害の男性主人公。
それぞれにつらさを抱えた二人が、決して交際したり、恋に落ちたりするわけではないのだけれども、生きることがしんどい同志として、ほんのちょっとの心遣いで、支えあうことで、少しずつ生きるのが楽になっていくという物語。
心温まる物語って、こういうものなのだなと思いました。
男女が劇的な出会いをして、恋に落ちてハッピーエンド、という物語では決してない。
だが、それだからこそ、人生は決してずっとハッピーなわけでもないけれども、少しばかりの心づかいで、救いになることだってあるという、読者の気持ちも前向きにさせてくれる小説なのではないかなと思いました。
2024年2月には、上白石萌音さんと松村北斗くんのW主演で映画化もされるので、注目の作品になります。