『人はこうした追求と、こうして熱に浮かされたかのようにしるしを組み合わせようとする営みに、知性の使い方の逸脱を看て取るのかもしれない。私はむしろそこに、知性の詩的機能、文学や宗教や偏執病(パラノイア)において働いているのと同じ機能を看る。(嫉妬)(P.45)』
お疲れ様です、スナフキンです。
本日は今年ノーベル文学賞を受賞した、アニー・エルノー氏の著作二篇が掲載されている、ハヤカワepi文庫の
『嫉妬/事件』
をご紹介。
現在こちらも、『事件』と言う作品が、ロードショーされています。表題は、『あのこと』というものになっています。
アニー・エルノー氏は、フィクションでもノンフィクションでもない、オートフィクションの旗手として有名だそうですが、掲載された二篇の『嫉妬』、及び『事件』は、それぞれ2002年、2000年に刊行された作品。
『嫉妬』は、若い恋人を他の熟年女性に奪われた、熟年の語り手の『私』が、嫉妬の虜となっていた時期の、自分のありさまを克明に記述している作品。
巻末の解説で訳者の堀茂樹氏が、ひたすら自分の体験の真実に肉薄している『嫉妬』は、なまなましい具体性を帯びていながら、個別性を離れた、誰もが「いつか自らの現実として受け止めることもあり得るような」ものとして、嫉妬を提示するに至った作品と述べている。
また、『事件』は、1963年当時、中絶が当時違法であったフランスで、妊娠をしてしまったものの、赤ん坊を降ろして学業を続けたい大学生の苦悩と葛藤を描いた作品。
個人の一回きりの具体的体験を巡り直しながら、妊娠中絶が合法化されていなかった1975年以前のフランスでの女性たちの体験を通底させる。
小説を読んでいれば感じられるのですが、アニー・エルノー氏の作品は、非常に表現が独特で、なかなか表象しにくい人間心理の機微を、巧みな文章で描いているのが面白い。
年末あともう少しですが、可能なら映画の方も観ていきたいと思います。