とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『楊令伝』第三章

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 大分間が空きましたが、自分の備忘録のためにも引き続き書いていきたいと思います。

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【おことわり】

 自分が現在継続して読み続けている、北方謙三氏の楊令伝の読書感想を書き記していく予定です。

 

 『楊令伝』は前作『水滸伝』に引き続き、『岳飛伝』へと繋がる、『大水滸伝』シリーズの一つで、ストーリー背景を描写する上で、多少のネタバレが生じてしまいます。

 

 有り難くも当該ブログをご覧いただく際には、その点をご理解いただけると幸いです。

 

 

booklovers45.hatenablog.jp

 

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〈前回までのあらすじ〉

 

 中国、北宋末期。かつて混濁の世を糺すため、大国の宋に真っ向から闘いを挑んだ梁山泊という組織があった。

 

 『替天行道』の旗のもとに集結した豪傑たちは、宋国の童貫元帥の率いる最強の禁軍との激戦の末、ついに陥落。生き残った同志たちは志半ばに、各地に散っていった。

 

 それから、三年の月日が経っていった。

 

 

 

 燕青は、李俊張敬らと、梁山湖に隠し沈めてあった銀を引き上げる。それは死んだ盧俊義が命を削って築いた塩の道から生み出された、梁山泊の軍資金であった。

 

 李俊燕青公孫勝史進宣賛呉用らは沙門島に集まり、今後の策を練るための会議を開く。

 しかし、再起のために不可欠なものが、まだ足りなかった。頭領である。呉用に北へ行くように命じられた燕青は、三年前に姿を消した楊令の行方を探しに行く。

 

 

 

 一方、官軍の闇組織、青蓮寺を率いる李富は、梁山泊が再び大きな反乱勢力になることを恐れていた。

 また北のの存在や、加えて阿骨打の建国したが、急速に勢いを増してきていた。そして南では、宗教指導者方臘の一派が勢力を強め始めていた。

 

 燕青と武松は、侯健の息子、侯進を伴い、北の地で幻王と呼ばれる男のことを探っていたが、ついに対峙したその男の正体は、まぎれもなく青面獣・楊令であった。

 

 燕青は楊令に梁山泊帰還の意思を問う。しかし、宋を倒すと明言した楊令は、現在の梁山泊軍へ合流することは肯んじなかった。

 

 一方禁軍最強の武将童貫は、地方行軍中に岳飛という少年と出会い、目をかけるようになった。

 

 また、呉用は江南の方臘勢の中へ、趙仁と名乗って潜入した。

 実は方臘には、官に不満を抱く宗教指導者の顔だけでなく、別の野心も持ち合わせていた人間であった。

 新しい国を建てることへの野望があったのだ。

 呉用は密かに楊令と会見し、大きな戦略について語り合うことになった。

 

 大地を赤く染めるほどの大規模な反乱が、江南で始まることになっていくのだった。

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 個人的には、この第三巻目くらいから、『楊令伝』の面白さが出始めてきているかな、と言う感じがしました。

 

 前作の『水滸伝』に続き、『楊令伝』も、勿論中心は梁山泊軍の攻防を描く物語なのですが、最強の対戦相手童貫含め、金国や遼国、また宗教指導者方臘など、多方面の視点から物語が語られることが非常に魅力的だと思っています。

 

 前回から個人的に注目していた呉用ですが、第三巻では、趙仁と名乗り、江南の宗教指導者方臘に近づき行動を起こします。

 

 土着信仰を巧みに利用し、民衆を引き付ける方臘ですが、その方臘と呉用(趙仁と名を変え接触)が語りあうシーンが印象的でした。

 

-方臘は、信仰の持つきわめて純真な部分を、ある感性のようなもので掴み取り、見事に戦に利用している。

宗教と遠いのではなく、一体になっているのではなく、その持つ本質を誰よりも理解しているということなのだろう。

 呉用がそのように分析している方臘であるが、その方臘と、呉用との語り合いが非常に印象的でした。

 

-(方臘)男として生まれ、思うさま生きられる。それだけで、生まれてきた意味はある、と俺は思う。

-(呉用)生まれてきた意味を、私は考えたことがありません。ただ、散漫に生きてきた、と申しましょうか。新しい国を建てる、この戦が終わった時に、その意味を噛みしめているのかもしれません。

-(方臘)理屈など、男が思うさま生きた跡をなぞるように、後ろからついてくるものだ。

 不意に、呉用は心を衝かれた。理屈が先に立つ生き方を、自分はしてきたのだと思う。こんな割り切り方は、しようとしてもできなかった。

 

 呉用と対極の生き方をしてきた方臘に対し、次第に呉用は心惹かれていくようになります。

 冷徹で周りからの評判も決して良くは無かった呉用が、皮肉にも死ぬことが出来ず、『生の呪縛』に取りつかれているなか、対極にある人間との関わりにおいて心情変化が生じていく。

 10年以上にもわたり読み続けている『水滸伝』シリーズの中で、読者の自分も心情変化があったのかもしれません。

 こうしたキャラクターの評価の変化があることも、自身にとって非常に興味深いと思って読み進んでいました。

 

 次巻以降、より物語は急展開を迎えてきます。

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