とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『楊令伝』第二巻

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

―――――――

おことわり

 自分が現在継続して読み続けている、北方謙三氏の楊令伝の読書感想を書き記していく予定です。

 『楊令伝』は前作『水滸伝』に引き続き、『岳飛伝』へと繋がる、『大水滸伝』シリーズの一つで、ストーリー背景を描写する上で、多少のネタバレが生じてしまいます。

 有り難くも当該ブログをご覧いただく際には、その点をご理解いただけると幸いです。

 ―――――――

〈前回までのあらすじ〉

 中国、北宋末期。かつて混濁の世を糺すため、大国の宋に真っ向から闘いを挑んだ梁山泊という組織。

 替天行道の旗のもとに集結した豪傑たちは、宋国の童貫元帥の率いる最強の禁軍との激戦の末、ついに陥落。生き残った同志たちは志半ばに、各地に散っていった。

 それから、三年の月日が経っていった。

 

 燕青は、李俊張敬らと、梁山湖に隠し沈めてあった銀を引き上げる。それは死んだ盧俊義が命を削って築いた塩の道から生み出された、梁山泊の軍資金であった。

 残った豪傑達は一同に集結し、今後の戦略を練るための会合を開く。そこへ戴宗が連れてきたのは、炎上した本拠地で死んだと思われていた、呉用だった。

 しかし、再起のために不可欠なものが、まだ足りなかった。頭領である。

 呉用に北へ行くように命じられた燕青は、三年前に姿を消した楊令の行方を探しに行く。

 

 一方、官軍の闇組織、青蓮を率いる李府は、梁山泊が再び大きな反乱勢力になることを恐れていた。

 また北の遼国の存在や、加えて阿骨打の建国した金が、急速に勢いを増してきていた。そして南では、宗教指導者方臘の一派が勢力を強め始めている。

 

 洞宮山で残党を結集しながら調練していた新兵の中には、華々しく戦死を遂げた花栄の息子、花飛麟がいた。

 花飛麟は武術では並外れた実力を持っているが、己の心の弱さゆえに、秦明の息子の秦容を怪我させてしまう。

 自分の弱さを思い知った花飛麟は、王進が健在の子午山に留まり、武術の腕を磨き上げていく。

 

 北の地をさすらっていた燕青武松は、ついに幻王と呼ばれる男と対峙する。

 顔には、赤い痣。岩山の頂にひとりで立つその男は、まぎれもなく、かつて宋江が『替天行道』の旗を託した男、青面獣・楊令であった。

―――――――

 

 再起をかける梁山泊軍の頭領、楊令が本格的に登場しますが、楊令のシーンは非常に重みがあります。

 

-人が、生涯で味わう苦しみの、何倍のものを、あの年齢ですでに味わっておられる。天稟に恵まれた上に、人の何十倍もの修行を積み、誰も経験したことがないほどの、激しい戦をしてきたのですよ。

-そうだな。聞いただけでも、すごい人生だものな。いつも、不思議な気配を漂わせている。逃げ出したいような、すべてを投げ出したいような、おかしな気持ちに襲われるよ。

 

 自らも死の危機に瀕し、かつ周りの重要人物の死に際にも直面した楊令。

 並大抵のメンタリティでは押しつぶされてしまうような経験をしていると思うのですが、非常に人間臭い一面が見受けられます。

 その上、人間を見極める力も人並み外れたものがあると感じました。

 自らの業が纏わりついていた武松ですが、楊令がその右手首を切り落としたことで、武松の性格を大きく変えました。

 

 また、楊令が考える、人々の志と国家との関係性の価値観も、現代の人間にも学ぶべきところがあるのではないかな、と思いました。

 楊令が、呉用と志について論議するシーンがあります。

呉用『志が、国を作るとは思えんのか?』

楊令『志が、夢が、国というかたちになってしまったら、また同じことです。権力や富の奪い合いが起きる。腐敗の具合は、いまの宋よりいくらかましでも、なくなるわけはない。闘いが、国というかたちで結実した時、志や夢は、消えていくしかないと思います。あの敗戦から、俺が考え続けて行き着いたところが、それです。』

(中略)

呉用『楊令、おまえの志は、夢は、新しい国家というものにつながるのか?』

楊令『不思議なことに、繋がらないのです。志を果して作り上げた国家は、倒した国家より、いくらかましである、ということにすぎません。それぐらいの愚かさを持っているのが、人でしょう。しかし、いまある国家を倒し、新しい国家を作りたいという想いには繋がるのです。そのために、闘おうという思いに。それで、俺は生きたと思えるだろうと。』

 

 新しい国家建国が目標であり、そのための原動力として志を考える呉用と、志を抱いて人生を駆け抜けることで、そこに自分の生きた証というものを感じようとする楊令

 志の捉え方は非常に違いますが、ここまで人らしい頭領と言うのは非常に斬新な気がしました。

 この楊令がどのように成長するのかも、見どころなのかもしれません。

Copyright ©とりま文系歯科医師が自己投資。 All rights reserved.

プライバシーポリシー