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【おことわり】
今回から以後、自分が現在継続して読み続けている、北方謙三氏の『楊令伝』の読書感想を書き記していく予定です。
『楊令伝』は前作『水滸伝』に引き続き、『岳飛伝』へと繋がる、『大水滸伝』シリーズの一つで、ストーリー背景を描写する上で、多少のネタバレが生じてしまいます。
有り難くも本ブログをご覧いただく際には、その点をご理解いただけると幸いです。
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前回のブログで、自分が高校生の頃出逢った『水滸伝』の続編、『楊令伝』を10年ぶりに読み始めたと書いていましたが、何故かその時途中の第一巻で読書が止まっていたので、今回改めて読みなおしてみました。
楊令伝開始時点での時代背景はこちら。
【『水滸伝』までのあらすじ】
時代は北宋末期、政治が徹底的に腐敗していた時代。
民の窮状を憂いた豪傑が、国家の支配を覆さんと、『替天行道』の旗を掲げた梁山泊を結成。宋軍に果敢に立ち向かい、激しい闘いを繰り広げる。
しかしながら、対する宋の最強軍人、童貫率いる禁軍によって梁山泊は劣勢に陥り、ついに陥落。
官軍に包囲され炎上した梁山泊の下で、当時の梁山泊の頭領だった宋江は、今回の主人公楊令に、『替天行道』の旗を渡す。
旗を受け取った楊令は、瀕死の宋江に止めを刺し、その後敵中を駆け抜けた。
人が生きるということは何なのか、それを問うために。
第一巻では、初期梁山泊の中で、命を失わなかった豪傑たちと、心身ともに変化した楊令のその後が描かれます。
命を失わなかったと言っても、その想いはそれぞれ。
なぜ自分だけ生きながらえているのか、自分より生きるべき人間が死に、自分だけ生きているのかと、自分の『生』に苦悩する人間もいて、『死』だけでなく、『生』においても葛藤する人間の姿が印象的です。
また、梁山泊の敗北から、大きく世界観や人生観を変えた人間も多くいました。
一番印象的なのは呉用です。呉用は初期梁山泊での軍師でしたが、打算的なところもあり、他の英雄たちに比べ、周囲に好かれていませんでした。
その呉用は、炎上した本拠地で死んだと思われていたのだが、実は生存していた。顔は大きく焼けただれた状態になりながら。
自分より戦闘力が優れ、有能な英雄たちが身近にいる中で過ごし、密かに葛藤はあったのでしょう。自身に劣等感がありながら、そうした英雄が数多く戦死する中で、呉用だけはなぜか死ぬことが出来ない。
『生』における強烈な試練を持っているのが呉用であり、個人的には大変興味深いキャラクターだと当初から思っていました。
非常に不思議なもので、10年前は正直呉用のことが嫌いでした。
それが10年経ち続編を読み返すと、何故か嫌いだったキャラクターの考え方に共感する自分がいます。非常に感慨深いものが有るなあと。
楊令は宋より北の地で、幻王と名乗り苛烈な戦闘を繰り広げていました。生き残った梁山泊メンバーが、楊令を迎え入れようとします。
―『あなた方と、話をしなければならない時機が、いま来てしまったのですね』
幻王の視線が横にそれ、それから空に向いた。しばらく、幻王は空を見つめていた。戻ってきた視線には、ただ悲しみの色があった。
第一巻はここで終わります。