本日夏季休暇の一日分を使い、上野にある国立西洋美術館を訪問。期間が変更された、『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』を鑑賞してきました。
英国ロンドンにある、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは、市民のために集められた選りすぐりのコレクションからなる美術館。
他国における美術館とは対照的に、ここは国が市民のために集めた美術館で、およそ13世紀から20世紀初頭まで、西洋絵画約2300点を所蔵している場所になっている。
その同ギャラリーが、初めて館外にまとめて作品を出品。もちろん日本初公開の形として今回の美術展を主催することになりました。
そもそも、なぜ英国は国立のギャラリーがあるのでしょうか。少し世界史を復習しました(笑)
1815年、ワーテルローの戦いでフランスに勝利した英国は、ヨーロッパに多大な影響を与えたナポレオン体制から抜け出し、植民地支配と産業革命によって飛躍的に発展した時流にも乗りつつ、自国の繁栄を謳歌するようになっていった。
同時に美術界にも変革が起き、イタリアやフランスなど、美術界では当時遅れを取っていた英国だが、1768年、英国固有の美術育成を目指し、『ロイヤル・アカデミー』を設立。
その後、1824年、国は裕福な銀行家から邸宅を購入し、邸宅をギャラリーとして、英国初の美術館としてスタートしました。
我々日本人はあまりイメージが付かないけれども、西洋美術というものは、必ず宗教や社会背景などと結びついているし、隠された意味がある。
名画を鑑賞するというのは、そうした西欧人が積み上げてきた歴史や知識、感性といったものを学ぶことと密接に結びついているのではないでしょうか。
名画の鑑賞姿勢に関しては、作家で西洋文化史家、早稲田大学講師の中野京子氏の著書にも、含蓄に富むことが書かれています。
また、以前のブログでも記したが、世界のエリートたちは『美意識』を鍛えるために、美術に関するトレーニングも現在盛んに行われている。
そうした時代の流れもくみ取りたいと思っていたので、自分の好きな世界史を学びつつ、美術史も並行して学ぶことができる、今回の美術展はとても有意義なものになりました。
おそらく日本人にとって一番人気なのは、ゴッホの『ひまわり』だとは思うのですが、自分の中で特に印象的で、学ぶことも多かった作品を少しだけ紹介したいと思います。
【シドンズ夫人 (ゲインズバラ)】
肖像画は、英国において発展した絵画ジャンルの一つ。
16世紀半ば、カトリック教会の干渉を逃れ、英国国王の絶対的優位性を保つために、イギリス国教会を設立したヘンリー8世ですが、彼は宗教画を禁じる一方で、王の絶対的優位性を視覚化するために、肖像画を沢山奨励しました。
こうした社会背景もあり、16世紀以降、肖像画は社会的シンボルを表すものとして流行し始める。
ゲインズバラが描いたシドンズ夫人も、シェイクスピアの悲劇『マクベス』の、マクベス夫人を演じた大女優。
本来なら肖像画は、モデルを最大限に美しく魅せるために、女優なら演じている時をモチーフとするところなのですが、この絵画はモデルの日常的なシーンを描いているところがポイント。敢えてそうした部分を描くことで、シドンズ夫人の美しさを逆に強調していることが受け取れます。
ロンドン・ナショナル・ギャラリーに、作品を一番多く寄贈したとされるターナーの作品。
18世紀末から、フランス革命、ナポレオン戦争と、まさに激動の社会を経験する中で、享楽的なロココの反発として、新古典主義やロマン主義が頭角を表しはじめます。
ターナー自身に関して言うと、歴史上においては、ロマン主義の先駆け的な存在として認識される画家。
大気や光を描き出し、後につながる印象派の先駆的役割を、ターナーは果たしたと言われている。
30年も前に、印象派の萌芽を作っていったというのは、本当に時代を先取りしていた人なのだろうなあと思う。
恥ずかしながら、元ネタとなる、ホメロスの『オデュッセイア』を読んだことが無いので、深い部分まで理解しきれてないのかもしれないのですが(汗)、少なくとも初めて美術館で目の当たりにした時、直感的にキレイ、と思ったのがこの絵画でした。
海と空を対比するような形で、光のコントラストが神秘的で、暗雲立ち込めていた当時の社会情勢の中で、その中でも希望を持って行きたいと願った作品なのでしょうか。
当時の情勢を想像しながら、色々考えてしまいました。
今後も積極的に、様々な文化芸術を学んでいきたいと思います。