書店の新書棚に赴いたとき、とりわけ異色の雰囲気を醸し出していた新書があった。
『哲学界のロックスター』と呼ばれ、世界中から注目を集めているドイツの哲学者がいるらしい。
その名は、マルクス・ガブリエル。
29歳という史上最年少の若さで、200年の歴史を誇るボン大学の哲学科・正教授に抜擢されたという天才的哲学者なのだとか。
ガブリエル氏は、『新しい実在論』というものを提唱した人物であると紹介される。
あらゆる情報が氾濫し、何が正しいのか分からなくなった時代を、『ポスト・トゥルース』の時代と呼ぶ。
そんな、『ポスト・トゥルース』の時代において、『新しい実在論』は、『真実だけが存在』し、分かりにくくありつつある『普遍的な価値』が厳然として存在すると説く。
本書は、役者の大野和基氏と、担当者とで、英語でのロングインタビューを編集する形で刊行した本である。
冒頭で、ガブリエル氏は、
『古き良き19世紀の時代・国民国家の時代に戻ろうとする動きが力を増している』
と主張する。
こうした世界の危機に対し、ガブリエル氏は、『新しい実在論』が、今を生きる私達にどのような変化をもたらすのかを描き出す。
本書では5つの危機を紹介している。
『価値の危機』、『民主主義の危機』、『資本主義の危機』、『テクノロジーの危機』、そして『表象の危機』だという。
こうした危機に対し、『新しい実在論』がどうアプローチするのかを問いかける。
危機の詳細に関しては本書をご覧になっていただくとして、その『新しい実在論』が具体的にどのようなものなのかを簡単に説明する。
そもそも、情報の前提から問わないといけない。
インターネットは非民主的なグローバル空間であり、良質な理論を得ることは出来ない。歪めた情報を植え付け、知性をむしばむ空間だとガブリエル氏は説く。
こうした環境に対する『新しい実在論』のテーゼは以下のようなものである。
【『新しい実在論』のテーゼ】
①「あらゆる物事を包摂するような単一の現実は存在しない」:存在論的
⇒現実は1つではなく、数多く存在する。複数の『意味の場』があり、これらの複数が合わさって、一つの統合された全体を構成する。
②「私たちは現実をそのまま知ることができる」:認識論的
⇒我々はまさに現実の一部であるから。現実である以上、全てをそのまま知ることが出来る。
正直分かったようで何とも分かりづらいテーゼなのだが、こうした『新しい実在論』が注目を集める理由にも、以下のようなものがあると説く。
【『新しい実在論が注目を集める理由』】
①21世紀の、真に哲学上の新発見である。
②新しい知見が、社会経済的、歴史的に現実的に起きていることと共振している。
「新しい実在論」はデジタル革命の結果として出てきた知見。
そして、こうした『新しい実在論』によって、リアルとバーチャルの境界線が再び明確になる。
つまり、『新しい実在論』は、新しくグローバルに協力し合おうじゃないか、という提案のことであり、デジタル革命における人間、知的能力と役割に関するコンセプトを、明確に教えてくれるものであると言える。
そして、これに基づき、デジタル時代において、『自分が誰であるか』、『自分が何をすべきか』を明確に理解できるので、その結果、倫理的、社会的な問いに答えられるようになるのだと、ガブリエル氏は説いている。
何とも理解している様でしっかりと理解しているのか不安だが、まあ内容としてはこんな感じである。
なかなか難しい哲学だなあ(笑)