対人サービスを本業としている自分にとって、相手の心理を理解し、気持ちの良い関係を構築することは必須のスキルであると思っている。
ビジネスと言うのは、心で動く人間が、心で動く人間を相手に行う営みであると、今回紹介する本の著者、榎本博明氏は述べている。
著者榎本氏は、大阪大学大学院助教授などを経て、MP人間科学研究所代表として、数多くの心理学をベースにした企業研修・教育講演を行っている方である。
本書はビジネス心理学の基礎知識をわかりやすくコンパクトに解説するとともに、実践的なヒントも散りばめられた、ビジネスを行う全ての人に通用する本である。
内容としては、自分も前から理解している部分もあるものの、目からウロコの新しい発見もあったりしたので、またいくつかまとめていきたい。
1.ダニング・クルーガー効果
2000年代にポジティブ心理学が提唱されて以降、ポジティブになろうとするあまり、物事をよく考えず楽観的になりすぎた人が多くなっていると榎本氏は述べている。
我々は皆ポジティブイリュージョンを抱え、自らの社会的能力や知的能力を過大視する傾向があるが、実はこうした傾向は能力の低い人の方が高いことが証明されている。
心理学者ダニングとクルーガーはいくつかの能力に関するテストを実施し、同時に自分の能力について自己評価するという実験を行った。
その際、各能力を4階層ごとに分けた。結果、下位10%ほどの実力しかないグループの人間は、自分の能力は平均以上とみなしている率が一番多いということが分かった。
つまり、
『能力の低い人は、自分の能力の低さに気付く能力も低い』
という衝撃的な事実が証明されてしまい、こうした現象を『ダニング・クルーガー効果』と名付けられた。
まずは自分の能力不足、実力不足に気付くことが成長の第一歩だと言えるのだろう。
2.プロテウス的人間
また、こうした不透明な時代だからこそ、自分のキャリアの可能性を力強く切り開いていくためにも、不透明さに不安を感じるのではなく、不透明だからこそワクワクすると言った心構えが求められる。
世の中が変動社会に突入し始めたころ、社会学者リフトンは、プロテウス的人間こそが変動の時代の適者だとした。
【プロテウス的人間の特徴】
①環境の変化に応じて自分自身を柔軟に変化させながら自己を発展させていく
②今の自分をあくまでも仮と見なし、次々と新しい仕事や生き方に全力でぶつかっていく
③たとえ何かで上手くいっても、そこに自分のアイデンティティを縛り付けたりせずに、別の可能性にも自己を開いておく
④新たな自己の可能性を求めて終わりなき実験を繰り返す
こうした人間は、変動の激しい時代には、むしろ適応的と見なすことが出来る。経験を糧にして自分自身を変身させ、どこまでも自分の可能性を開発していく姿勢は、まさに先を見通せない今の時代にふさわしいものと言えるのではないだろうか。
新型コロナが終息したとしても、社会における人との関わり方は大きく変わってくることだろう。
今は本当に多くの人に辛い時期であるのは言うまでもないが、こうした時代にも新たな自己の可能性を求め続けていく気持ちを持ち続けていきたい。