とりま文系歯科医師が自己投資。

読書好きな開成、一橋大卒文系出身歯科医師のマイペースブログ。読書を中心に学んだ知識をアウトプットすることで、何か社会が少しでも変わればなと思い開設。好きなテーマは小説全般、世界史、経済学、心理学、経済投資など。筋トレも趣味です。

読書感想:『マリアビートル』

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現代小説の中で好きな作家のひとりが、伊坂幸太郎氏である。

10年前、自分が一橋大学の学生だったとき、とある女性に、

『●●さん(本名)って、伊坂幸太郎の『砂漠』に出てくるニシジマさんに似ていますよね。』

と言われたことがきっかけで、伊坂氏の本を読むようになり始めた。

その後決して多くの著作を読んでいる、と言うわけではないのだけれども、ちょこちょこと読み続けている。

今回も書店で目に留まった文庫を購入。

 

マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

 

 

 

2010年の9月に刊行された本作『マリアビートル』は、初期の人気作となるグラスホッパーの続編とされている。また、その後の作品として、2017年に『AX』と言う作品も出ている。

恥ずかしながら関連作品はまだ読んでいないので、今度読んでみようと思う。

シリーズとしては『殺し屋シリーズ』ということなので、そうした関連性を感じながら読むのも伊坂作品の楽しさである。

 

物語の舞台となるのは、東京発、盛岡行きの新幹線。その中で様々な魅力的な登場人物が、巧みにかつ臨場感あふれる形で動き回り、ストーリーが展開していく形になっている。

 

今回本作で非常に興味深いと思ったのは、『王子』こと、王子慧と言われる14歳の中学生である。

彼には人間に本来備わるべきである倫理観が欠如している。しかし、その一方で、人並外れた高い知能を持ち、それが皮肉となって、大人たちをいとも簡単にマインドコントロールし、自分が優位になる環境を完全に創り上げて、その心に内在している『悪』を発揮している。

伊坂氏の描く『悪』は、こうした自分の知能を武器に、狡猾に相手の心理を抉りとるようなキャラクターが多い気がする。こうしたキャラクターを通じ、人間社会に蔓延る不条理や問題点を小説の中で映し出すところが、自分が伊坂作品の好きな理由の一つだと思っている。

 

本作の中で、『王子』がルワンダ虐殺の歴史を引用しながら、

『人間は同調する生き物』

なのだ、ということを相手に説く箇所が本当に印象深い。

人間が同調しやすくなるのは、

『その判断がとても重要で、しかも、正解がはっきしりない、答えにくい者』の場合、人は他人の意見に同調しやすくなる。

人間は、おぞましい決断や倫理に反する判断をしなくてはならない時こそ、集団の見解に同調し、『それが正しい』と確信するのではないだろうか。それを踏まえれば、虐殺が止まらないどころか、推進されていったルワンダ虐殺の歴史についても説明できる。彼らは自分の判断ではなく、集団の判断こそが正しいと信じ、それに従って行っただけだと説かれている。

 

こうした集団同調行動の心理は、最近の新型コロナウイルスのデマにおける集団行動にも大いに当てはまるのではないだろうか。

デマに動かされる集団に対して、『バカだなあ』と見下すことは簡単だが、上記のような集団心理の性質を考えると、自分もその一員になるという可能性も冷静になって考えないといけないと思う。

科学は集団心理の前では無力である、とは思いたくもないが、少なくともこうした心理を学んでいくのは決して無駄なことではないと思う。

 

小説を通じ、こうした知識もついていくことも、伊坂幸太郎氏の本の魅力である。

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